海外でリモートワーク
海外の一部の国や地域では、新型コロナウイルスはもはや「重大な脅威」ではないとして、さまざまな制限を解除したところも出てきました。今後コロナが完全収束するのか、あるいはパンデミック(世界的大流行)からエンデミック(地域的流行)に移行していくのか不明ですが、将来的には世界各国での渡航制限が解除されることが期待されます。その時には、日本でもパンデミックによって一気に加速したテレワークが、海外リモートワークまで拡大していくかもしれません。この記事では、海外リモートワークの可能性や魅力、メリットなどについて紹介していきます。
リモートワークは新たな働き方として定着していく
テレワーク・リモートワークの現状
2019年時点の調査では、日本全国のテレワーク導入率は約20%、東京都の導入率は25%ほどにとどまっていました。新型コロナのパンデミック後には、全国のテレワーク導入率は約30%を超えており、東京都のテレワーク導入率は58.7%(2021年2月時点)に上昇しています。特に東京では、従業員規模100人以上の企業では、7割以上がテレワークを導入している結果となっています。
海外のテレワーク普及率は、アメリカで85%、イギリスで38.2%、ドイツで21.9%、フランスで14%とされており、アメリカの普及率が際立っています。アメリカでは2010年に、連邦政府による「テレワーク強化法」が制定されており、政府職員にもリモートワークが推進されてきました。
国内では2022年1月に、ヤフーが社員の居住地制限を撤廃する新しい人事制度を発表し、「飛行機通勤OK」というタイトルで報道され話題を集めました。続いて、NTTが2月に同様の社員の居住地制限撤廃を表明、リモートワーク実施率が7割に達したことも明らかにしました。居住地制限の撤廃については、メルカリ、LINE、GMOペパボなどのIT企業もすでに導入しています。
リモートワーク普及の要因
エンジニアなどが多いIT企業では、高い生産性さえ担保してもらえれば、メンバーの働く場所はどこでもかまわないというスタンスが以前からありました。またIT企業では、リモートワークという勤務条件は、優秀な人材の確保と争奪のために、必要不可欠だったという要因があります。
また、デジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)のトレンドもリモートワークの普及を推進しています。SlackやZoom、Google Workspace、Microsoft 365などのクラウドソフトや電子契約書の普及により、オフィス出社の必要性が減少しました。
海外リモートワークの可能性
海外拠点を抱える日本企業は、パンデミックによる渡航制限によって、国内から海外拠点へのリモートワークや遠隔管理を経験することになりました。物理的な海外出張と対面マネジメントの代わりに、海外支社や生産拠点を効果的にリモート管理する必要があったわけです。また、海外出張や海外赴任中に現地から帰国できない社員もいたため、彼らはいわば強制的に海外リモートワークを行う必要がありました。
日本企業のこのような海外とのリモートワーク経験は、社員の海外リモートワークの受け入れや海外在住フリーランスとの雇用契約・業務委託契約という、さらに柔軟な働き方と人材活用に発展していくかもしれません。
自社の社員が、パートナーの海外赴任や家族の事情により、海外移住しなければならなくなったという場合にも、海外リモートワークを選ぶことができればキャリアを続けられます。
欧米のスタートアップでは、オフィスを持たずに、社員やメンバー全員が世界各地からリモートワークで働いているという組織も珍しくありません。スタートアップは、成長のフェーズに合わせて適切な人材を迅速に確保する必要があるため、グローバルに人材を集められるリモートワークが適しているのです。
また、優秀な人材確保のためにリモートワークを導入済みの海外テック系企業などでも、海外リモートワークを受け入れる企業が増えることが予想されます。日本企業もグローバルで人材獲得競争に勝利するためには、国内のみならず、海外リモートワークを柔軟に導入する必要がありそうです。
海外リモートワークの魅力とメリット
海外赴任や海外旅行とは違う海外リモートワークの魅力とは、どういった点にあるのでしょう。まず、海外リモートワークでは、海外赴任では選べない滞在先を自由に選択できることです。物価が安い国に滞在する、一年中温かい国に滞在する、旅行ではなく長期で憧れの土地に滞在するといった目的や、サーフィンやダイビング、登山やスキーといった自分の趣味やアクティビティに合わせて、リモートワークを行う国や地域を選ぶことができます。快適なワークライフバランスやウェルネスの実現を求めて、自由に海外リモートワークの目的地を選べばよいということです。
海外リモートワークやデジタルノマドにおける長期滞在では、現地の異文化やカルチャーを深く体験することができます。初めて体験する味覚やグルメ、ローカルのコミュニティの触れ合いは人生に豊かな彩りを与えてくれます。また、コリビングやコワーキングスペースのイベントで、スペシャリストやクリエイターとの交流や、ビジネスネットワークの構築が可能なことも、海外リモートワークのメリットの一つです。
デジタルノマドビザ
リモートワーカーとして滞在する外国人に、1年間といった長期ビザを発行する国が増えてきており、このような長期滞在プログラムは「デジタルノマドビザ」と呼ばれています。現在41の国が何らかのデジタルノマドビザのプランを提供しています。
2014年に「eレジデンシー」制度を開始して注目を集めた北欧のIT先進国エストニアは、2018年にデジタルノマドビザの計画を発表し、2020年7月からビザ申請の受付を開始しました。ヨーロッパではこの他、ジョージア、クロアチア、アイスランド、ドイツ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、マルタ、ギリシャ、ルーマニア、ハンガリーといった国が、デジタルノマドビザを導入しています。
中東のドバイ(UAE)は、ビーチ沿いに住んでリモートワークできる1年間有効の仮想ワーキングプログラムを提供しています。
ブラジルは、2022年1月に南米最初の国としてデジタルノマドビザを導入しました。1年間有効のビザで、さらに1年間延長可能です。
タイは、2022年1月に、最長10年間有効の長期滞在ビザ(LTR)の、デジタルノマドを含む資格規則を内閣承認しました。ビザは最初に年間10,000バーツの費用で5年間与えられ、さらに5年間延長することができます。
デジタルノマドに人気のバリ島のあるインドネシアも、デジタルノマドビザの発給を検討しているという話も海外メディアで取り上げられています。
リモートワーカー向け海外滞在パッケージ
一人で海外に長期滞在してリモートワークをするのは孤独だという人のために、世界中のデジタルノマドと交流できるパッケージもあります。
Hacker Paradise(ハッカーパラダイス)
Hacker Paradise(ハッカーパラダイス)は、グループで旅行しながらリモートワークを行うプログラムで、デジタルノマドの専門能力開発と信頼感のあるネットワーキングを得られる魅力があります。2014年に設立され、ベトナム、コロンビア、ブラジル、ドイツ、日本、ポルトガル、アルゼンチン、アフリカなどの地域でプログラムを実施してきました。サイトで公開されている旅行先から自分が参加したい場所を選択し、カレンダーの参加開始日を選択して、最短2週間から最長1年間まで自由なタイミングで参加できます。
Remote Year(リモートイヤー)
Remote Year(リモートイヤー)は、リモートワークをしながら世界各地を巡るプログラムを提供しています。参加者は、ヨーロッパ、アフリカ、ラテンアメリカ、日本を含むアジアの各国で、1カ月ごとに滞在先を変えながら、チームでデジタルノマド生活を送ります。2014年に設立されたRemote Yearは、これまでに世界の40を超える都市で、70以上のプログラムを実施、3,000人以上が参加してきました。12カ月の「ワーク&トラベル」プログラムは32,000ドルという料金で、航空券・交通費・宿泊費・コワーキングスペースなどを含んでいます。
Unsettled(アンセトルド)
Unsettled(アンセトルド)は、コミュニティベースの旅行体験で、成長と冒険を追求するために安住を拒否するリモートワーカーのためのプログラムです。1カ月のコワーキング旅行から1週間のセーリングアドベンチャーまで、バリ、ブエノスアイレス、トスカーナ、ギリシャ、コスタリカなど、世界の20以上の目的地で100以上のリトリートを運営しています。Remote Labsという、企業や組織、雇用主がリモートワークを最大限に活用できるよう支援するサービスも提供しています。
WiFi Tribe (WiFi トライブ)
WiFi Tribe (WiFi トライブ)は、2016年にスタートした厳選されたコミュニティベースの旅行プログラムです。これまでの62の国籍の参加者たちには、1,000人の専門家リモートワーカー、フリーランサー、起業家などが含まれています。毎月新しい都市でコリビングして、コワーキングとコラボレーションを行っています。参加希望者を慎重な面接を通して、価値観を共有する他の専門家とマッチングさせています。
The Nomad Escape (ノマド・エスケイプ)
The Nomad Escape(ノマド・エスケイプ)は、専門家やチームのビジネスとネットワーキングのためのリトリートプログラムです。リモートワーカーのための1週間のビジネスリトリート、企業のチームビルディングのためのカンパニーリトリートのほか、ESCAPERS CLUBというオンラインのリトリートサービスも提供しています。
海外リモートワーク、まずはリサーチから
海外リモートワークを行う企業のリモートワーカーやフリーランス、デジタルノマドは、新型コロナ収束後に大幅に増加することが予想されます。デジタルノマドに人気の目的地やコワーキングスペース、デジタルノマドビザの情報やベストシーズンなどを、今からリサーチしてみてはいかがでしょうか?